初期研修医の記録

twitterではふざけたことしか言わないので、真面目な方の話。

フィクション

 

 

 

「それで、君は人が、世間が羨むような資格を手に入れたわけだ。どうだい?いい気分かい?」

と、小学校からの唯一の友であるYはたずねる。

 

わからないと私は言った。結局医師免許を得たところでスタート地点に過ぎないし、むしろここからが本番だと。

 

 

そう伝えるとYは笑いながらiQOSを手に取った。ああ、君は煙草の煙がだめなんだっけ。でもコレは水蒸気だからさ、とこちらを気遣いつつも自分の欲求を通してくる。

構わないよ、副流煙でやられるほどヤワな肺じゃないと嘘医学を披露すると、Yは昔ながらの紙巻よりも幾分小さい筒を口にくわえた。

ダメだ、皮肉が通じていない。

 

 

「煙は出ないけど焼き芋臭くなるかもね、iQOSは。」

それならおさつスティックにでも火をつければいいのだ。その方が健康にいいだろうし、カリカリになっておいしい。

するとYは、そういう下らない思いつきの吐き出し先がインターネットなんだな、と煙の代わりに悪口を吐き出した。

 

 

 

 

「いや別に構わないんだ。公衆の面前で叫ぼうが、心のうちに秘めようが、君がそういう人間であることに変わりはないんだ。肩書きや身分が変わろうが君という人間の根幹は同じさ。

さっきも聞いたろ?免許を得てどう変わったかって。わからない、と言ったよな。あれは君が大学に受かった時と全く一緒だ。君は高校生の時には“知性の保証“を求めていた。いくら成績が良くっても、医大に受からなければ何の意味も無いと。高校生の時は、医学生になれば幸せになれる、そう言っていたんだ。でもいざ受かると、ここはまだスタートライン、医師になることで、次のステップでようやく満足できると。

 

君は今また同じことを言ったのさ。次は何だい?医者の次は何になったら満足するんだい?」

 

 

iQOSが燃え尽きる。長年パーラメントを喫っていたYにはもの足りないのだろう、2本目をセットした。

 

「君は自己評価が低い。いつも不満げだ。もちろんその不満こそが君の向上心に繋がっているのだろうけれど、その様子を側で見てるこっちとしては堪ったもんじゃないよ。君は自分が持っているものを大したことないと蔑むことで心の釣り合いを取っているんだろうけれど、過度の自虐はイヤミにしかならない。適度なプライドと自尊心は持たなきゃダメさ。」

 

 

 

そういうものかな、と一応は納得した体を取る。コーヒーを彼の言葉と共に飲みこんだ。