初期研修医の記録

twitterではふざけたことしか言わないので、真面目な方の話。

フィクション②

 

 

「結局、私を捨てるってこと?」

 

 

引っ越しを間近に控え、幾分スッキリした大学時代を過ごしたアパート。思い出のマグカップも、もはやアラサーといってもいい年齢の男女が身につけるには幼すぎるペアネックレスも、ダンボールやゴミ袋に押し込められ次に陽の光を浴びる日が来るのを待っている。

 

 

いや、そういうわけではないんだ。ただ、これから激務になる僕と付き合っていくのは難しいだろう。君の若い時間を無駄にさせたくないんだ。これがお互いのためになると思ってさ。

 

 

「そう言って距離を置いて、復縁できることなんてあるの?国家試験に受かった程度で調子に乗ってるんじゃないの?言っとくけど、私のおじいちゃんの弟もお医者さんだったのよ!」

 

 

知った事じゃない。君の親戚にいくら同業がいようが僕らのことには関係ないだろう。というかおじいちゃんの弟ってなんだ。大叔父か?

 

 

 

 

「あなたがこれから出会う人間なんて、誰もあなた自身のことなんて評価してくれないのよ。あなたの持っている資格や、お金に興味があるだけ。まだ何もない学生時代から付き合っていた私だけが、あなたの本当の魅力に気付いてるの。それなのに...」

 

 

僕の白けた態度を見て作戦を「ガンガンいこうぜ」から「泣き落とし」に変更したらしい。以降は泣きながら思い出を語る彼女と一緒に感極まったフリをすることに終始した。

 

 

 

 

1人で帰りながら彼女の言葉を反芻する。

これから出会う女性は僕自身を評価しない、確かにそうだ。

でも学生時代から付き合っていたからって人間性だけを評価するなんてありえるのか?頭が優れていれば将来的に偉くなりそう、顔が良ければかわいい子供を成せそう...株を底値で買うか天井で掴むかの違いでしかない。

 

株と違って人間関係は売り抜けができない。掛け捨てだ。

掛け捨てになってしまった僕らの関係は、嫌な後味だけを残して終わっていく。